詐欺被害に遭ってしまったら、多くの人は「詐欺師を絶対に許せない!逮捕してほしい!」と考えるでしょう。しかし、警察に相談しただけでは、簡単には逮捕につながらないことも少なくありません。
そもそも、どのような場合に詐欺師を逮捕できるのでしょうか。逮捕後の流れはどうなるのでしょうか。告訴するために気を付けるべきポイントは何でしょうか。そして、詐欺師が捕まったとしても、被害金は返ってくるのでしょうか。
詐欺被害に遭ったら詐欺師を逮捕できる?
詐欺被害に遭った場合、多くの人は詐欺師を逮捕して欲しいと願うでしょう。実際、詐欺行為は刑法上の犯罪であり、一定の要件を満たせば逮捕・起訴することが可能です。
詐欺罪の成立要件と逮捕の可能性
詐欺罪が成立するためには、刑法や過去の判例に基づく複数の要件を満たす必要があります。これらを満たさない場合は民事事件として扱われ、警察に動いてもらえません。ここで紹介するのは、詐欺罪の要件です。
1. 欺罔行為(相手を騙す行為)
2. 財産的損害の発生
3. 因果関係(欺罔行為と財産的損害の間に因果関係があること)
4. 故意(詐欺の意図があること)
最近の詐欺事件の検挙状況と件数
法務省の犯罪白書によれば、令和5年の詐欺の認知件数は37,928件です。検挙されているのは16,084件で、割合にして42.4%しかありません。検挙率は前年比で約7%程度減少しており、犯罪が巧妙化しているのが分かります。
なお、投資詐欺の手口で増えている、SNSそのほかの非対面での勧誘から始まる「SNS型投資詐欺」の認知件数は、令和5年中で2,271件です(参考)。その被害額は約278億円にも上りますが、検挙率や被害回復に関するデータは出ていません。警察は善処するものの、被害回復は十分でないと予想されます。
被害届の提出と捜査の流れ
詐欺被害に遭った場合、まずは警察に被害届を提出します。被害届を受理した警察は、事情聴取や証拠収集などの捜査を開始します。被害者への聴取、関係者への聴取、関連資料の精査、金融機関への照会などを行い、詐欺の全容解明を目指します。十分な証拠が集まれば、警察は詐欺師の逮捕に踏み切ります。
逮捕後の流れ(起訴、裁判など)
詐欺師が逮捕されると、警察から検察に送致されます。検察は、警察の捜査結果を精査し、起訴するかどうかを判断します。起訴されれば、裁判に移行し、有罪であれば刑事罰が科されます。詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役ですが、情状により執行猶予がつく場合もあります。
もっとも重要な被害金の回復ですが、上記の刑事裁判の過程では行われません。被害者が自分で民事裁判を起こすか、後述の制度を使うか、いずれかの方法で対応が求められます。もっとも、裁判を起こしたところで、犯人に返還する資金が残されているかは不明です。
詐欺被害で刑事告訴する際のポイント
詐欺被害に遭った場合、警察に相談するだけでなく、刑事告訴を検討することも重要です。刑事告訴とは、被害者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める行為です。ただし、刑事告訴を行う際には、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。ここでは、証拠の保全と告訴状の作成について解説します。
証拠を残しておく
詐欺被害で刑事告訴を行う際、証拠の存在が非常に重要となります。警察や検察が詐欺事件を立件するためには、犯罪の成立を裏付ける証拠が不可欠だからです。したがって、被害者は可能な限り証拠を残しておく必要があります。
詐欺の手口や状況を時系列でまとめる
詐欺被害に遭ったら、まずは詐欺の手口や状況を時系列でまとめましょう。いつ、どこで、だれが、どのような方法で、何を言って詐欺行為を働いたのかを、可能な限り詳細に記録します。この記録は、告訴状の作成や捜査機関への説明の際に役立ちます。
振込明細や契約書など関連書類を保管
詐欺被害に関連する書類は、必ず保管しておきましょう。振込明細、契約書、領収書などは、詐欺行為の立証に直結する重要な証拠です。また、詐欺師との電話やメールのやり取りを記録したメモなども証拠として有効です。
メールやチャットの履歴、録音データを保存
詐欺師とのやり取りがメールやチャットで行われた場合、そのデータを保存しておくことが大切です。また、電話で詐欺被害に遭った場合は、録音データがあれば証拠として非常に有力です。スマートフォンには通話録音アプリもあるので、活用を検討しましょう。
受理される告訴状を作成
警察に刑事告訴する際は、告訴状を提出する必要があります。告訴状は、一定の要件を満たしていないと受理されないことがあるため、作成には注意が必要です。
告訴状の記載事項と形式
告訴状には、被害者の住所・氏名、被告訴人(詐欺師)の氏名・住所(不明でも可)、被害の日時・場所・金額、被害の態様(具体的な詐欺の手口)を記載します。また、告訴状には被害者の署名・押印が必要です。
客観的事実を簡潔に記載する
告訴状では、客観的な事実を簡潔に記載することが重要です。感情的な表現は避け、具体的な行為や言動を淡々と述べましょう。時系列に沿って、分かりやすく記載することを心がけます。
告訴状の提出先と方法
告訴状は、犯罪地を管轄する警察署に提出します。被害に遭った場所や、詐欺師と会った場所の最寄りの警察署に持参するのが一般的です。告訴状は、被害者本人が直接持参するのが原則ですが、代理人に依頼することも可能です。
以上のように、詐欺被害で刑事告訴する際は、証拠の保全と告訴状の作成が重要なポイントとなります。十分な準備を行った上で、警察に相談し、適切な対応を取っていくことが肝要です。
警察に相談しても逮捕してくれない理由
詐欺被害に遭った場合、多くの人は警察に相談し、詐欺師の逮捕を願うでしょう。しかし、実際には警察に相談しても、すぐに逮捕につながらないケースが少なくありません。これには、いくつかの理由があります。例えば、詐欺事件が民事事件に該当する場合、犯人の身元が特定できない場合、証拠が不十分な場合、被害金額が少額な場合などです。ここでは、これらの理由について詳しく解説していきます。
民事事件
警察が詐欺事件を扱う際、まず問題となるのが、その事件が刑事事件なのか民事事件なのかという点です。警察は、民事不介入の原則に基づき、民事事件には関与しないのが原則です。これは、私人間の紛争に国家機関である警察が安易に介入することを避け、当事者の自主的な解決を促すための原則です。
したがって、詐欺事件であっても、それが民事事件に該当する場合、警察は基本的に介入しません。悪質ではあるけれども、刑法上の詐欺罪の成立要件を満たさないと言った場合には、警察は積極的に動かないのです。
犯人の身元が不明
警察が詐欺師を逮捕するためには、まず犯人の身元を特定する必要があります。しかし、詐欺師は偽名を使ったり、他人になりすましたりするため、身元の特定が困難なことが少なくありません。
とくに、インターネット上の詐欺事件では、匿名性の高さから犯人特定が極めて難しくなっています。近年、海外からの詐欺事件が増加しており、例えば、フィッシング詐欺や投資詐欺などは、海外に拠点を置く犯罪グループによる犯行が多く見られます。こうした事件では、たとえ犯人の身元が判明しても、海外の捜査機関との連携が必要となるため、逮捕までには多くの時間と労力を要します。
証拠が不十分
詐欺罪を立証するためには、欺罔行為の存在、財産的損害の発生、両者の因果関係、詐欺の故意を証明する証拠が必要です。具体的には、詐欺師とのやり取りを記録した書面やメール、振込記録、証言など、客観的な証拠の収集が重要となります。
しかし、詐欺師が巧妙に証拠を隠滅していたり、証言が得られなかったりするケースでは、立証が困難になります。警察が証拠を収集する上で、被害者からの情報提供が極めて重要となります。被害に気付くのが遅くなったり、犯人が巧妙に特定を避けていたりすると、証拠はほとんど集まらず、警察でも対応は難しくなります。
被害金額が少ない
警察は、限られた人員と予算の中で効率的に捜査を行う必要があるため、被害金額が少額な事件については、優先度が下がることがあります。特に、社会的影響の大きな事件や、重大犯罪の捜査に多くの人員と時間を割く必要があるため、個人の被害者が申告する数万円単位の詐欺事件は、組織的な詐欺事件と比べて優先度が低くなりがちです。
被害金額が少額な詐欺事件では、警察が被害届を受理したとしても、積極的な捜査が行われないことがあります。例えば、被害者への事情聴取は行うものの、加害者の特定や逮捕には至らないケースが少なくありません。これは、捜査リソースの問題に加え、少額事件では被害者も刑事処分よりも被害回復を優先するケースが多いことが背景にあります。
詐欺師を逮捕した場合、返金請求できるのか?
詐欺被害に遭った場合、警察に相談し、詐欺師を逮捕することは重要な一歩です。しかし、多くの被害者にとって、最大の関心事は被害回復、つまり詐取された金銭の返還にあります。では、詐欺師が逮捕された場合、被害者は返金を請求できるのでしょうか。結論から言えば、詐欺師の逮捕は被害回復の第一歩ではありますが、それだけでは被害金の返還が保証されるわけではありません。
刑事裁判での被害回復の限界
詐欺師が逮捕され、起訴されると、刑事裁判が行われます。刑事裁判では、検察官が被告人(詐欺師)の犯罪事実を立証し、裁判所が有罪判決を下した場合、被告人に対して刑事罰(懲役刑や罰金刑)が科されます。
しかし、刑事裁判はあくまでも被告人の刑事責任を追及するものであり、被害者の被害回復を主目的とするものではありません。したがって、刑事裁判の結果だけでは、被害金の返還を受けることはできません。
損害賠償命令制度の内容と申立て
刑事裁判の過程で、被害者は損害賠償命令制度を利用することができます。これは、刑事裁判の結果、被告人に有罪判決が下された場合、被害者が申し立てることで、裁判所が被告人に対して被害弁償を命じる制度です。被害弁償命令制度を利用するためには、検察官に対して損害賠償命令の申立てを行う必要があります。申立てがあれば、裁判所は、有罪判決と同時に被害弁償命令を発することができます。
損害賠償命令制度は、被害者の被害回復を容易にするための制度ですが、いくつかの限界もあります。まず、命令が発せられても、被告人がそれに応じない場合、強制執行が必要になります。また、被告人に十分な資力がない場合、実際の回収は困難になります。さらに、対象となる被害は、物的被害(財産的被害)に限定されており、精神的被害は対象外となります。
損害賠償請求訴訟の提起
刑事裁判とは別に、被害者は民事裁判で詐欺師に対する損害賠償請求訴訟を提起することもできます。この場合、被害者は原告となり、詐欺師を被告として、詐取された金銭の返還と、場合によっては慰謝料の支払いを求めることになります。損害賠償請求訴訟では、被害者が詐欺の事実と損害額を立証する必要があります。立証に成功すれば、裁判所は詐欺師に対して損害賠償を命じる判決を下します。
ただし、損害賠償請求訴訟にも限界があります。まず、訴訟には時間と費用がかかります。弁護士費用や裁判費用など、一定の経済的負担が生じます。また、勝訴判決を得ても、詐欺師に支払い能力がない場合、実際の回収は困難になります。
詐欺師の資力と回収の現実性
以上のように、詐欺師の逮捕後、被害回復のためには、被害弁償命令制度や損害賠償請求訴訟などの法的手段を活用することができます。しかし、いずれの方法でも、最大の障壁となるのが、詐欺師の資力の問題です。多くの詐欺師は、詐取した金銭を短期間で使い込んでしまうため、逮捕時には十分な資産を保有していないことが少なくありません。また、詐欺師が資産を隠匿していたり、第三者名義の口座に移していたりする場合、被害回収はさらに困難になります。
したがって、詐欺師の逮捕は被害回復の第一歩ではあるものの、それだけでは被害金の返還が保証されるわけではありません。被害に気付いたら、被害金が費消されてしまう前に、一刻も早く犯人を特定し、追及することが肝心だと言えます。
返金を優先したい場合は調査会社へご相談を
詐欺被害に遭われた方にとって、詐欺師を逮捕してもらうことの目的は、被害金の回収ではないでしょうか。しかし、これまで見てきたように、警察への相談や刑事裁判での手続きだけでは、必ずしも満足のいく被害回復は望めません。お金を返してもらうところまで警察でサポートしてもらえるわけではなく、全般的に対応が後手に回りがちであり、そのあいだに被害金が費消されてしまうことが多々あるためです。
調査会社には、詐欺事件に特化した調査ノウハウと、豊富な実績があります。詐欺師の手口や資金の流れを熟知しているため、警察よりも迅速かつ的確に詐欺師の追跡と資産の特定が可能です。また、弁護士など法務の専門家とも連携しており、民事裁判での対応も万全です。まずはお気軽にご相談ください。